2024年10月勉強会報告
「日本語のクラスで文化(歴史学・民俗)を教える : データベース構築の可能性」
(フレデリック・ルシーニュ先生)
執筆者 三好直美
1. 講師紹介 : フレデリック・ルシーニュ氏
INALCO、筑波大学、神奈川大学を経て、現在はストラスブール大学で研究を続け、ジャン・モネ高校で日本語を教えている。専門は民俗学の柳田国男。
2. 基本発表
- フランスの高校では、国民教育省が定めたAxe(カリキュラムの柱となるテーマ軸)をもとに教えることが求められている。しかし、日本語教育ではSéquence(学習単元。以下、シーケンス)の共有が出来ていない。本日の勉強会でシーケンス、データベースの構築を試みたい。AEJFの4~9月のアンケート結果によると、シーケンスを使っている人、作ったことのある人は少ない。
- Axeと「まるごと」を比較すると、次のような違いがある。Axeの単元が独立しているのに対し、「まるごと」はスパイラル式に学習していく。Axeには多い政治、科学、芸術の項目が「まるごと」には少ない。
- Axeは入口。関係するものは何でも入れられる。
- 活動的な学習方法
- CEFRの徹底的な導入(評価方法も変化)
- 文化から学習を始めなければならない (「文化を切り口とした学習」「理解と産出」)。
⇒教師は自分の教材を作成しなければならない。
⇒学習者の「文化的仲介能力」を向上させる学習方法を中心に「和魂洋才」のようなステレオタイプやイデオロギー性を回避しつつも「伝統」と「近代」の組み合わせを考慮しなければならない。
3. 1回目のグループ活動 : シーケンス制作
各グループ、経験者を中心に制作し、発表。
4. ディスカッション : 2、3をふまえての講師と参加者の質疑応答
Q : 第3外国語で「文化から」は難しい。日本語とフランス語の文法はかけ離れているのにCEFRに当てはめると初級文法をきちんと教えられないのではないか。
A : フランスの生徒はこの方法に慣れている。バランスよく教えたい。
Q : 授業はフランス語で?
A : できるだけ日本語で話す。分からない所、初心者への文法説明はフランス語で。
Q : Axeのバカロレアとの関連は。
A : バカロレアの現代外国語の最終試験は無くなった。Axeは以前のNotionに比べてより抽象的になり、項目数が増えた。全部やらなくていい。
5. 今後の活動の紹介 : データベースを作るアイディア
- 2回目のグループ活動
- ディスカッション
- 各グループで話し合われたことを発表。
動画、画像などのコーパスを集める。→シーケンス例と共にAxe別に並べる。
国際交流基金「みんなの教材サイト」のように検索できるようにする。 - 講師から
Slackでフォーラムを作り、この計画を進めて、定期的に現状報告したい。
中等教育で教えていない人にもAxeは先駆的な取り組みなので参考になると思う。
- 各グループで話し合われたことを発表。
追記:
Axe(テーマ軸)やシーケンス(学習単元)についての説明はÉduscolのウェブサイトに詳しい。
https://eduscol.education.fr/1726/programmes-et-ressources-en-langues-vivantes-voie-gt
2024年12月勉強会報告
「AIの使い方について、みんなで話し合いましょう」
(国際交流基金/パリ日本文化会館 蟻末 淳先生)
執筆者 中島晶子
ここ数年、教育分野でのAIの活用が急速に進んでいますが、使いこなすのはそう簡単ではありません。そこで、蟻末先生にAIについての勉強会をお願いしました。
事前課題にはさまざまなタスクがあり、実際にいろいろなAIを使って何がどのようにできるのかを探ることができました。課題で紹介されたAIは、ChatGPT、Perplexity、Claude AI、Geminiです。課題では、おすすめのAIなどを使って、与えられたテキストを材料に以下のことをします。1. 難しめのフランス語を日本語に翻訳、2. 学習者の作文を添削、3. 初級の読解問題を作成、4. ニュースをやさしい日本語に変換、5. 指定されたプロンプトでAIを辞書として使用、6. 用語の説明とその引用元を提示、7. 例文を作成、そして、最後にほかの使い方の可能性を考えます。
タスクをしていると、AIによる違いが見えてきたり、期待どおりの結果が出たり出なかったりするなど、この段階ですでに多くの学びがありました。
勉強会では3つのワークがありました。最初に、AIをどのように使っているか、どんな疑問があるかについての話し合いました。ここでいろいろな情報交換ができました。次に、カスタマイズ済の教科書を使い、AIがどこまで教師の仕事ができるかを試しました。最後に、AIにウェブプログラミングをしてもらい、練習問題を作りました。
こうしたさまざまなタスクを通して、AIの使い方だけでなく、AIとの向き合い方についても多くのヒントを得ることができました。
蟻末先生は勉強会の最初にご自身の立ち位置に触れ、「知識は伝達されるものではなく、それぞれ違う状況・環境の中で学習者が環境や他者(自分以外の全て)の助けを得て自ら構築するもの」とする社会構成主義の考え方を示され、「AIが個別最適化された『学習』を促進する」ということを説明されました。AI活用の目的はこれだと思いました。
その一方で、AIは急速に進化し、社会を大きく変えています。今後、社会インフラになると言われているAIとうまく付き合っていくために、ぜひ、AIの勉強会第2弾があればと思っています。
2025年2月勉強会報告
「今さら聞けないCEFR」
(NPO法人YYJ 奥村三菜子先生、当麻文先生、山下直子先生)
執筆者 中村GUERRE潤子
2025年2月15日、フランス日本語教師会主催のオンライン勉強会「今さら聞けないCEFR」に参加しました。参加にあたり、事前にパワーポイントのPDF版が届き、「印刷またはダウンロードしてお手元にご用意ください」との指示がありました。そのおかげで、当日は話を聞きながらメモが取りやすく、非常に効率的な学習ができました。
以下、簡単ですがご報告致します。
CEFRの歴史と理念
勉強会の冒頭では、CEFRの歴史について説明がありました。CEFRは、EU通貨統合を背景に、2001年に公開されました。言語教育を「平和教育」の重要な手段ととらえ、国家間の相互理解と異文化理解を通してヨーロッパ市民性を構築することを目的に、欧州評議会によって作られたとのことです。
日本語教師である自分が、平和活動の一端を担っているという事実に驚くと同時に、大きな使命を感じました。
複言語・複文化能力とSocial Agentの育成
CEFRでは、複言語能力・複文化能力を持った人を「Social Agent(主体的・能動的に社会で行動できる人)」に育てることを目指していると紹介されました。
この複言語能力は誰もが持っている「わたしのことば」として、次の4つの特徴を備えています。
- 様々な言葉の種類全部を含む・・・生まれ育った地域の言葉 (方言・標準語など)、個々の経験による言語(旅行や滞在経験から得た外国語や趣味に関する専門用語など)や使用場面に応じた表現(家族、職場、電話対応、インスタ語、LINE語、ジェスチャーなど)。
- 部分的能力がある・・・言語ごとに得意・不得意の偏りがある。
- 相互補完的に絡み合う。
- 一生、変化し続ける。
ここで参加者全員が自分の複言語を書き出す活動を行いました。自分に置き換えることで、複言語の複雑さをより実感できました。そして、学生一人一人が異なる複言語能力を持っており、その個性に応じた授業づくりの重要性を改めて認識しました。
「できること」と「できることを支える力」
続いて、「桜の花(できること)」と「根(できることを支える力)」のイラストが紹介されました。
「できること」には以下の4つの活動・方略があります。
- 受容活動・方略 (聞く・視聴覚・読む)
- 産出活動・方略 (話す・書く)
- 相互行為活動・方略 (口頭・文字・オンライン)
- 仲介活動・方略(テキスト・概念・コミュニケーション)
「できることを支える力」としては以下の2つの能力があります。
- コミュニケーション言語能力(言語的能力・社会言語的能力・言語運用能力)
- 一般的能力(叙述的知識・技能とノウハウ・実存的能力・学習能力)
これら活動や能力に関するクイズもあり、理解度を確認する良い機会となりました。
授業活動
最後に、2つの異なる会話授業の活動例が紹介されました。これらが「Social Agent」の学びに資するものであるかどうかを評価するため、10項目から成るチェックリストが提示され、グループに分かれて議論しました。
チェックリストの主な観点には以下のようなものがありました。
- 言語知識の学びに偏っていないか
- 授業活動と社会活動が分断していないか
- 学びに自由度はあるか
- 主体的・自律的な学びであるか
具体的な授業例を見ることで、CEFRの理念を授業にどう取り入れていくかが明確になりました。私達が受け持つ授業は、クラスの編成人数や学生が日本語習得に求める目的など様々違います。その中でも、今回学んだCEFRの理念に少しでも近づけるよう、工夫しながら授業を進めていこうと強く思いました。そして、学生に主体性を持たせ、自分自身は「仲介者」としての役割を果たしていきたいと考えています。
このような充実した学びの機会を頂き、ご講義くださいました先生方、そしてフランス日本語教師会事務局の皆様に、心より感謝申し上げます。
2025年3月勉強会報告
「オノマトペ表現の分析から質感認知をさぐる」
(東京農工大学 宇野良子先生)
執筆者 塩谷幸恵 (INALCO)
日本語話者が何気なく使っているオノマトペ。一方、日本語学習者にとっては、極めて難解な語彙群の一つである。すなわち、日本語を教える者として、その感覚的なオノマトペの数々を「言語化」し、学習者に言語として獲得してもらうことは、時折、否、往々にして容易ではない。しかしながら、宇野先生による今回の勉強会によって、科学的にオノマトペを眺めるという類を見ぬ機会をいただき、大変有益であった。
宇野先生は実験認知言語学がご専門で、今回はお煎餅の食感を表すオノマトペという切り口で実験を行ったケーススタディなどをご紹介いただいた。それらをより深く理解できるよう、冒頭で、「音象徴 (Sound Symbolism)」(=言語の音、それ自体が本来的に何らかの意味(イメージ)と結びつく傾向をもつこと)および、「オノマトペ (Ideophones; Mimetics)」(=音象徴などにより感覚イメージを写し取る、特徴的な形式を持つ語)の基本概念から「オノマトペにおける音象徴」まで懇切丁寧にご教授いただいた。
「オノマトペの分析から探るお煎餅の質感」の実験紹介では、まず、「お煎餅の実食と想像食」において七種の米菓を用い、客観的硬さの計測を破断荷重として数値化し、さらに日本語話者による主観的硬さとして十段階評価をご提示された。次いで、「米菓の食感を表す言葉」として、各種米菓を特徴づけるオノマトペを見つけるために、最初の回答に10%以上現れたオノマトペを抽出し、特徴的な表現(硬いものから順に:ガリガリ、バリバリ/サクサク、パリパリ/フニャフニャ、モチモチ)が得られ、そこから、米菓のプロトタイプ(典型例)の候補が絞られた(サクサク、パリパリ)。この結果は、参加者や筆者も納得できるものであった。
一方、その結果は「想像上の米菓を表すオノマトペ」や「オノマトペから思い浮かべた食品」との相違があり、第二の実験であるオノマトペ・音象徴の解析として「想像上のお煎餅はどれくらい硬い?」に繋がってゆく。結果の検討や解釈、まとめ・議論も非常に興味深いもので、皆さまには是非、その他の実験である「比喩表現の分析から探る人間の質感」も合わせて、下記の宇野先生によるスライドをご覧いただきたい。
https://aejf.asso.fr/download/aejf-coference-atelier_onomatope_2025-03
また、スライド外でお話しいただいた「パリパリとバリバリのどちらが硬いものと感じるか」については、日本語話者は圧倒的に「バリバリ(/b/)」を挙げるが、英語・ドイツ語・フランス語話者だと「パリパリ(/p/)」を挙げるとのことで、特に英語の[ph](h=アスピレーション)による「強さ」なども交えながら、日本語には有声音と無声音の対立がオノマトペの対立として存在し、有声音の方が硬いと認識されているのではないかという仮説が提示された。さらに、それが各言語における食品のネーミング(マーケティング)にも影響を及ぼしているであろうという考察は極めて注目すべき点であった。そこで翌日の筆者の授業にてフランス語話者である学生に軽くアンケートを取ったところ、やはり全員が「パリパリ」の方が硬いものと感じると答えた。この結果は宇野先生のご指摘を改めて裏付けるものであり、今後のご研究への期待も高まる。